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▶[第11回目:文頭


連載講座:組織活性化と管理者の役割>第3章 部下育成

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【はじめに】

私は長年金融機関に勤務した後、(社)日本能率協会で経営コンサルタントの修行に入ったのですが、部下育成というと必ず思い出す人がいます。その人は私の所属した事業部の最高責任者でした。私は現在置かれている自分の境遇にほぼ満足していますが、その人との出会いが無ければ(おそらく)今の私は無かったと思っています。その人の総てを尊敬していた訳ではありませんが実に多くの事を学ばせてもらいました。当時、私は役立ちそうなことをメモするために手帳サイズのメモカードを携行していましたが、その人から学んだことをメモしたカードは(2年ほどで)500枚を超える数になりました。その人はすでに遠くに旅立ってしまいましたが、メモを記したカードは(大切な思い出として)今でも保管してあります。あなたも現在の従業員・部下との出会いを(一つの縁として)受け入れ、その人達の成長を支援して頂きたいと願っております。



【キーワード】

管理者の役割/従業員・部下育成の方法/教育体系の作り方/OJTの導入方法と事例紹介/その都度教育訓練のポイント/学習意欲の研究と実践のヒント/部下育成の実践ヒント(一覧表)



【目次】

あらかじめ詳細項目を一覧したい方は 5.「部下育成」の実践ヒント(一覧表)を御覧下さい)

1.「部下育成」を管理者の役割とした理論的根拠 ▶[本文]へ

2.経営幹部のための実践ヒント(図表-10、図表-11、図表-12、図表-13、図表-14) ▶[本文]へ

3.管理者のための実践ヒント ▶[本文]へ

4.学習意欲の研究 ▶[本文]へ

5.「部下育成」の実践ヒント(一覧表) ▶[本文]へ



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1.「部下育成」を管理者の役割とした理論的根拠

組織活性化の観点から「部下育成」を管理者の必須の役割として取り込んだ根拠は、ローラーが示した[業績=意欲×能力]という定義式にあります。すなわち、彼は「意欲と能力は相乗的な関係にあり、かりに意欲が高くても能力がゼロであれば業績もゼロになる」と説いています。多忙な管理者にとって「部下育成」はどうしても後回しになりがちですが、部下育成は本人の為になるだけではなく管理者自身の為にもなるのです。たとえば、部下に教えるためには自分自身が学ばなければなりませんので自分自身の成長につながります、教える相手である部下から学ぶこともあるでしょう。さらに部下の業務遂行能力が高まれば、それに応じて組織目標の達成が容易になりますし、部下に任せる範囲が広がりますので管理者本来の仕事に取り組む時間が増えます。「時間が出来たら」ではなくて「時間を作って」部下育成に取り組んでいただきたいと思います。部下育成は時間が掛かるものです。少しずつ取り組んでみて下さい。少しずつであっても、何もしないよりはずっと良いのです。



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2.経営幹部のための実践ヒント

経営幹部(役員クラス)のための実践ヒントとしては「教育訓練体系の構築」、「OJTの実施」、および、[人事評価制度の活用]を紹介します。



ヒント1:[教育訓練体系の構築]
まず「教育」・「訓練」という用語ですが、教育とは必要な”知識の習得”を強調した用語として、また、訓練とは必要な”態度・技能の獲得”を強調した用語として使用します。

さて、教育訓練の体系ですが、私は[階層別教育+職能別教育]+[自己啓発]をもって、その主要な骨格と考えています。階層別教育とは部長研修、課長研修といったように組織階層ごとに(職能の種類にはこだわらずに)参加者を集め、その職位を担う者に共通して必要とされる事柄を教育(あるいは訓練)する方式です。他方、職能別教育とは営業職研修、生産担当者研修といったように(組織階層にはこだわらずに)職能ごとに参加者を集めその職能を担う者に共通して必要とされる事柄を教育(あるいは訓練)する方式です。これらは共に会社主導で行われることが多く、教育訓練体系の2本柱を構成します。そして最後に自己啓発を、それらの2本柱を補強するものとして取り込みます。”自分自身の能力を高める原点は自分自身にある”からです。



【中堅・中小企業の教育訓練体系】

教育訓練の体系は大企業ではかなり整備されているものの中堅・中小企業においては人的・予算的・時間的理由から、まだまだ整備が不十分です。そこで私は中堅・中小企業の教育体系として[公的研修機関の活用]+[OJT]+[通信教育]を勧めています。と言うのも、教育訓練の基本的な体系を[階層別教育]と[職能別教育]および[自己啓発]とした場合、階層別教育は公的研修機関の活用で、職能別教育はOJTで、自己啓発は通信教育で行うことが出来るからです。

たとえば、中小企業大学校などの公的機関の研修は内容も充実しており費用的にも負担が少なくて済みます。また、OJTは仕事を進めながら上司・先輩が部下・後輩に教えるので時間的・費用的な負担が(外部派遣型のOff-JTよりも)少なくて済みます。なによりも自社の業務内容に密着した教育訓練の出来るところがOJTの大きな魅力です。さらに、通信教育はメニューが多いので自己啓発には最適です。自己啓発は自己負担が原則ですが「修了を条件に会社が(全額/一部)を負担する」としているところもあります。

なお、教育訓練に関しては、受講者本人を対象とした[教育訓練給付制度]や事業主を対象とした[キャリア形成促進助成金]といった制度があるので、それらも有効に活用すると良いと思います。

[第11回目:文末]■





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▶[第12回目:文頭]


2.経営幹部のための実践ヒント(続き)



ヒント2:[OJTの実施]
さて次は教育訓練の方法ですが、それは職場外訓練(Off-JT: Off the Job Training)と職場内訓練(OJT: On the Job Training)に大別出来ます。公開セミナーへの派遣はOff-JTの典型であり、職場で(通常業務として)加工機械を操作しながら新人にその操作方法を教えたり、(通常業務としての)セールス活動に新人を同行させて教育訓練するのはOJTの典型です。一般的に、階層別教育はOff-JTで、職能別教育はOJTで行われることが多いようです。

他方、自己啓発については通信教育の活用があります。費用も時間も原則として個人負担になりますが、自社の教育訓練の体系に組み込んだ場合には費用の一部(あるいは全部)を会社が負担するとか、資格試験の受験に際して時間的な便宜を与えるといった支援を組み込むことが必要になります。以下においては教育訓練の中核的方法とも言うべき[OJT]を中心に述べていきます。

先に述べたように、OJTとは On the Job Training の略であり,通常は、”職場内訓練”と訳されています。しかし,その定義は実にさまざまであり定説はありません。ですので、ここではThe ASTD Training and Development Handbookを参考にし、「仕事の場において仕事そのものについて、教育訓練計画を作成した上で教える方式」を[狭義のOJT]、「計画を持たず、気が付いた時に気が付いた事を教える方式」を[その都度教育訓練]、両者を合わせて[広義のOJT]と定義します。

たとえば、あらかじめ作成したOJT計画に従い、工場の生産現場で先輩が後輩に実作業をしながら機械操作を教えるとか、先輩営業マンが新人営業マンと共に実際のセールス活動を行いながら応酬話法を教えるといった方式の教育訓練は[狭義のOJT]になります。他方、部下の不手際な電話対応を聞いていた上司が、電話が終わった直後に然るべき注意を与えるのは、[その都度教育訓練]になるわけです。どちらも大変有効な方法ですので今一歩踏み込んで説明していきます。



【OJTの進め方】

OJTについては定義が確立していないので再度の確認をしておきます。すなわち、[広義のOJT=狭義のOJT+その都度教育訓練]としたうえで、[狭義のOJT]、[その都度教育訓練]の順で述べていきます。ただし、一般的に言われている[OJT]はここで定義した[狭義のOJT]に該当しますので、これ以降は単に[OJT]と表記することにします。さて、その「OJTの進め方」ですが、原則的な展開手順は次のようになっています。

図表-10 OJTの原則的な展開手順
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【OJTの長所と短所】

以下においてはOJTの長所と短所について要約しておきます。


【長所】
(1)その会社、その職場に必要な固有の業務遂行能力(知識・技能)の教育訓練に適している。
(2)教育訓練の結果が直接的に業務遂行結果として現れる。
(3)対象者の個別のニーズや能力に対応した教育訓練が出来る。
(4)多能工の育成に便利である。
(5)フォローが容易なので教育訓練に大切な熟度の確認や必要に応じた繰り返しの教育訓練を実施し易い。
(6)外部からの指導者に依存しない教育訓練であるところから費用的な負担が少なくて済む。
(7)日常の業務遂行と並行的に実施出来るので(外部セミナーなどへの参加に比べ)時間的なロスが少ない。


【短所】
(1)上司・先輩の側が”多忙”を理由にしてOJTの推進に意欲を示さないことがある。
(2)実務上の知識・技能など、教える側の能力に限界のある場合がある。

*これらの短所に関しては、(1)OJTにおける指導実績を評価する方法を工夫したり、(2)教える側(上司・先輩)を外部研修へ派遣するなど、対処の方法も少なくないので、決定的な短所と言うよりもOJT実施に当たっての”留意点”として捉えた方が建設的だと思います。なお、(1)の対策事例としては、このあとに紹介する[図表-11 OJT導入時のガイドシート]の説明も参照して下さい。

[第12回目:文末]■


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▶[第13回目:文頭]


2.経営幹部のための実践ヒント(続き)



ヒント2:[OJTの実施](続き)

【OJTの導入・展開事例】

ここでは私が導入・展開のお手伝いをした中堅企業の事例を紹介します。一部を省略したり書き換えてありますが御了承下さい。




図表-11 OJT導入時のガイドシート
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図表-11 は導入にあたって全従業員に配布したガイドシートです。始めに私が管理者の方々に説明し、そのうえで各管理者の方々から部下の人達に説明して頂きました。以下は各項目についての補足説明です。

(1)
「参加(的意志決定)はやる気を高める」ということはすでに説明済みですが、このOJTシステムの導入・展開にあたっては”参加”を重要視しました。目標設定では本人の意見・希望が尊重されるように、指導に当たっては両者の自由闊達な意見交換が行われるように、振り返りの時には本人が自ら主体的に経過・結果を分析し上司は助言者の立場に立つように、ということです。取り組みの主体は本人、上司は指導者・助言者という関係の中で自由なコミュニケーションが交わされることを期待してのことです。

(2)
第1項目と重なる処がありますが、目標設定時の“本人の納得”を重視するための項目です。すでに説明済みですが「目標設定時の本人の納得」は目標遂行意欲を高めるためにとても大切なことです。

(3)
OJTの指導者は上司(管理者)に限定しませんでした。先輩でも良いし、同輩、時によっては後輩でも良い、とした訳です。結果として、自分の後輩からパソコン(ソフト)の操作方法を習うという場面も見られました。

(4)
OJTに自己啓発を加えてしまうのは教育体系との整合性に欠けますが、当社では客先の事業所に一人で常駐しながら仕事をすることがあり、そのような従業員も参加できように配慮した項目です。

(5)
組織活性化の方策は“実行”されなければ意味がありません。そのために導入されたのが「1回につき1項目、期間は6ヶ月」という方式です。もちろん、1項目を3ヶ月としても構いません。1年かかる目標は6ヶ月ずつ2回に分けて計画・実施しても良いのです。ただし、途中での息切れを防ぐために“1年計画は不可”としました。

(6)
当社のOJTシステムにおいては「月次報告制度」を取り入れました。進捗状況にかかわらず現状の報告をしてもらうということです。遅れている場合には原因と対策を付記してもらいます。対策としての期間延長も認められます。なお、この月次報告書は直属上司・事業所長経由で総務部長(OJT事務局長)のもとに集められ一覧表に整理された後、各事業所・幹部役員・社長にまで届けられます。誰がどんなことをやっているのかが、月単位で、誰にでも分かることになります。

(7)
「やっても、やらなくても、同じ」、ということのないようにするため明記しました。




図表-12 OJTの目標シート
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これはOJTの実施計画と月次進捗状況を記入するためのフォームです。実施計画だけではなく、月次報告にも使い、最終的には完了報告書になります。これ一枚で実施計画の立案・月次報告・完了報告が出来るわけです。以下においては要点だけを箇条書きで補足しておきます。

■[氏名]
OJTを受ける人の氏名を記入します。

■[目標値]
目標項目(教育訓練項目)が完了したか未完了かを判断するためには「目標値」が必要です。数値で表現出来ない時には箇条書きや上司判定でも良しとしました。

■[期間]
6ヶ月以内で計画します。

■[指導者]
教える人(先生役)の人の氏名を記入します。

■[フォロー月日/進行状況確認]
毎月のフォロー内容を記入し、月次報告として上司経由でOJT事務局長(総務部長)へ提出します。提出者は控えを取っておいて、翌月にはそれに追加記入していきます。したがって、完了すると(途中経過も分かる)完了報告書になります。

■[計画進度/実績進度]
厳密なものではありません。およその見当で記入します。





図表-13 OJT月次報告一覧表
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OJT事務局長(総務部長)のもとに提出された総ての月次報告書つまりフォロー記入のなされた「OJTの目標シート」は一覧表に集約された後、各事業所・幹部役員・社長にまで届けられます。誰がどんなことをやっているのかが、月単位で、誰にでも分かることになります。




図表-14 OJTの完了報告書
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目標値を達成して完了となったら、最終記入が終わった「OJTの目標シート」に重ねて表紙として使います。ホチキスで留めて2枚一組になるわけです。完了報告のための提出書類はこれだけです。


【付記】

(1)
会社は一社ごとに異なります。同じ会社はありません。ですから、他社事例はあくまでも”参考”です。マネジメント・システムの導入にあたっては”自社に合ったシステム”にすることが肝要です。そうしないと実効のあるシステムにはなりません。

(2)
言うまでもなく、“部下育成”は管理者の必須の役割です。部下の能力を高めることによって、単位組織としての業務遂行能力が向上し、管理者は管理者本来の仕事に充てる時間を増やすことが出来るようになります。OJTは部下本人のためであると同時に、管理者自身のためにもなるのです。管理者の方は(多忙でしょうが)自社のOJTシステムを有効に活用して頂きたいものです。

(3)拙著の紹介:
表紙_2.jpg『中小企業のためのOJT実践マニュアル』(Kindle版/2017年) [内容紹介]へ 






ヒント3:[人事評価制度の活用]
人事評価制度は従業員の組織貢献度を判定し、それを処遇に連動させるのが本来の機能ですが、それと共に”育成”という大切な機能も持っています。たとえば、評価項目をあらかじめ公開し、参加型の目標設定を行い、結果の判定にあたっても本人を参加させるならば、人事評価のシステムは優れて教育的なものになるでしょう。第2章で紹介した「目標管理制度]はこの考え方に整合的な管理手法の一つです。かりにそれを導入することが出来ない場合には、[評価項目の公開]をするだけでも教育的な効果があります。なぜならば、評価項目とは組織が期待する人間像を表したものに他ならないからです。

[第13回目:文末]■



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▶[第14回目:文頭]


3.管理者のための実践ヒント

管理者のための実践ヒントとして、「OJTの有効活用」および[その都度教育訓練のポイント10ヶ条]を説明します。



ヒント1:[OJTの有効活用]
“部下育成”は管理者の必須の役割です。部下の能力を高めることによって、単位組織としての業務遂行能力が向上し、管理者は管理者本来の仕事に充てる時間を増やすことが出来るようになります。OJTは部下本人のためであると同時に、管理者自身のためにもなるのです。管理者の方は(多忙でしょうが)自社のOJTシステムを有効に活用して頂きたいものです。



ヒント2:[その都度教育訓練]

【その都度教育訓練のポイント10ヶ条】

その都度教育訓練のポイントは幾つもありますが、どこかで線を引かなくては、かえって閲覧者に不便を強いることになってしまいます。自分に当て嵌めてみると、せいぜい10項目位が実践的な数であろうと思うので、[その都度教育訓練のポイント10ヶ条]とさせて頂きました。


(1)仕事の進め方について、あらかじめ自分の考えを伝えておく
部下の側にしてみると、仕事の進め方について、自分の上司は何を”望ましい”とし、何を”望ましくない”としているのか、あるいはそれらの間の”軽重”をあらかじめ知っておきたいものです。それを上司の側から最初に言っておく必要があります。たとえば、「自分は仕事を進めていく上で3つの重点方針を持っている。皆もそれを念頭に置いて仕事をして欲しい。それは、①顧客第一、②成果重視、そして、③約束厳守です」といった具合です。もちろん、管理者のおかれた状況で、あるいは自分の仕事上の信念から、掲げる方針は異なるでしょうが、あらかじめ方針を明示しておくことは”事前の教育訓練”になるのです。問題行動が起きてから教育訓練するよりも、問題行動が起きないよう、前もって出来ることをやっておこうという発想です。


(2)日頃から信頼関係の構築に心がける
その都度教育訓練は、具体的には”叱る・注意する”といった形で行われることが多くなりますが、そのためには日頃から叱ったり注意をしたりすることの出来る関係を作っておくことが大切です。たとえば、こまめに接触したり部下の成長を願っていることを伝えておくことが必要になります。業務上のやり取りに加えて、通りすがりに一声かけたり、昼食を一緒にとったり、社内メールで簡単な意見交換をしたり、部下の仕事に関する関連情報を提供してあげたり、時には一緒に退社するといった方法があります。”この上司は自分のことを気にかけてくれている、育ててくれようとしている”、そういう気持ちを部下に持ってもらえれば、叱るのも随分とやりやすく効果の上がるものになります。信頼関係があれば、場合によっては”怒鳴っても”大丈夫でしょう。


(3)考えて叱る
”考えて叱る”と言うと、「そんなことしていられるか」という声が聞こえてきそうですが、考えないで叱る(たとえば、即座に怒鳴る)ということには両者の人間関係を壊してしまう危険性があります。やはり、その都度教育訓練の基本は、”冷静に、考えて”というところにあるのだと思います。とくに、”何を根拠に”、”どう叱るのか”、そのうえで、”どうさせたいのか”ということについてはあらかじめ自問しておく必要があります。そうしないと、揚げ足を取られたり、引っ込みがつかなくなったり、たんなる”爆発”で終わってしまい、その都度教育訓練にはなりません。

そのほかにも幾つかの留意点があります。「面倒くさい」とか「部下は叱らないことにしている」と言わないで是非参考にして頂きたいと思います。

(a)叱る(注意する)タイミング:
原則は”その場、その時”。ただし、内容によっては”別の日時に、別の場所で”ということもあります。どちらにするかは、叱る前に考えて決めます。

(b)叱る(注意する)対象:
”そのことだけについて、簡潔に”、が原則です。「そう言えば...」式の”ついで説教”は効果よりも害の方が大きくなるでしょう。

(c)相手に応じた叱り方(注意の仕方):
相手の性格(内向vs外向/素直vs反抗)に応じた叱り方(注意の仕方)が必要です。たとえば、内向的な部下には諭すような感じが良いでしょう。他方、反抗的な部下には注意する根拠をシッカリと確認しておくことが必要になります。

(d)部下の言い分も聞く:
冷静に考えた上で部下に注意するとしても、依然として、”上司の思いこみ”という危険性が残ります。部下には(上司の知り得ない)部下側の理由や事情のあることも少なくないのです。注意の前か後に、「この件について、君の方からも意見や考え方(言い分)を聞かせて欲しい」といった場面を用意することが必要です。原則としては”事前” の方が良いと思います。  

(e)一貫性を持つ:
「そんなことは自分で判断しろ。一々相談にくるな」と 言われた部下が、同様の状況で自己処理したら、「なんで前もって俺に相談しないんだ」と叱られたのでは部下はたまったものではありません。ぜひ、一貫性を持って指導したいものです。


(4)行為に着目する
叱ったり注意をしたりする時は、不都合な”その行為”を対象にすることです。「客先との約束時間を守れ」と言うのは良いのですが、「だから、お前はだらしがないって言われるんだ。もっときちんとしろ」とは言わない方が良いのです。本人が改め易いように不都合な”行為”に着目して具体的に指導します。何をどう改めれば良いのかが部下に分かるように指導する、ということです。


[第14回目:文末]■





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▶[第15回目:文頭]


【その都度教育訓練のポイント10ヶ条】(続き)


(5)思いやりを持って
叱った後、注意した後には関連の事柄で何か励ましを与えるようにすると良いです。上司に叱られて元気溌剌となる部下はまずいないでしょう。程度の差はあれ、落ち込む部下が多いと思います。そんな時、上司が一言励ましてくれれば教育効果も上がるというものです。「君にしては珍しい失敗だったね...」とか「○○の時はうまく出来たのだから、これからは...」といった一言でも部下は救われるのです。また、午前中に叱ったら食堂で昼食を同席するとか、仕事がらみで一声かけてやるのも有効です。「そんなことやっていられるか」という声も聞こえてきそうですが、ぜひ試してみて頂きたいと思います。そうすれば、「俺はお前が嫌いで叱ったのではない、育って欲しくて叱ったのだ、根には持っていない」という気持ちが伝わるでしょう。


(6)誉めるべきは誉める
その都度教育訓練というと叱ったり注意したりすることのみに注目しがちですが、”誉めるべきことを誉める”のも立派な教育訓練であることを忘れないようにしたいものです。「誉めると、後が使いにくい」、「誉めなければ動かなくなる」、「ちゃんと出来て当たり前」といった声も聞こえてきそうですが、理由無く誉めよとか、おだてて使えといっているのではありません。”誉めるべきことは誉めて頂きたい”といっているのです。一言の賞賛でも、あるいは、労いの言葉でも良いのです。時に応じて実行してほしいものです。


(7)本人に考えさせる
部下本人に考えさせることをせず、すぐに指示を出したり、答えを出してしまう管理者がいますが、それでは部下は育ちません。忙しい時や緊急の場合はともかくとして、部下に考えさせる機会を少しでも多くして欲しいものです。たとえば、何か問題が発生した場合には、「君は何処に原因があると思うか」、「君はどのように対処しようとしているのか」、まず本人に考えさせることです。その時には(質問することによって、本人に考えさせ、解決方法に気づかせる)コーチングの手法も有効です。いずれにしても、「○○課長のところに相談に行くと、必ず自分の考えを聞かれる」と言われるようになりたいものです。


【付記】
コーチングの定義はさまざまで定まっていませんが、ここでは、「適切な質問によって、クライアント(コーチングの対象者)自身に、自らが持っている意欲・能力に気づかせ、本人の抱えている問題や課題を、自らの意思と行動で解決出来るように支援すること」と定義しておきます。


(8)人事評価の活用
人事評価は部下の組織貢献度を判定し、それを処遇に連動させるのが本来の機能ですが、それと共に”育成”という大切な機能も持っているのです。たとえば、評価項目をあらかじめ公開し、参加型の目標設定を行い、結果の判定にあたっても本人を参加させるならば、人事評価のシステムは優れて教育的なものになるでしょう。第2章で紹介した「目標管理制度]はこの考え方に整合的な管理手法の一つです。かりにそれを導入することが出来ない場合には、[評価項目の公開]をするだけでも教育的な効果があります。なぜならば、評価項目とは組織が期待する人間像を表したものに他ならないからです。


(9)「育成ノート」の作成
その都度教育訓練は、それぞれの部下について、さまざまな状況で、さまざまな事柄について発生するので、かり部下が5人であったとしても、それぞれの部下について、その総てを記憶しておくのは難しくなります。そこで、「育成ノート」の作成をお勧めします。ただし、育成ノートといっても大げさなものではありません。手帳でも良いし、カード形式でも良いし、業務ノートでも良いのです。要は部下ごとに記入するページを用意すれば良いのです。そしてそこに部下単位で育成関連事項を記入していきます。日付を入れて、何を注意したか、何を誉めたか、その他、育成関連で気のついたことをメモしておきます。そうすることによって指導上の重点項目を発見出来ますし、記憶に頼らない整合性の有る指導が可能になります。メモをするのは面倒かもしれませんが、それを補って余りある利便性がありますので、ぜひ実行してみて下さい。ただし、現物の管理には十分注意する必要があります。部下の氏名や評価レベルを自分だけに分かる記号にしておいたり、鍵のかかる引き出しに保管するなど、自分に合った方法を工夫して頂きたいものです。


(10)率先垂範
格言として知られていますが「率先垂範」が必要です。管理者は自らが望ましい行為(手本)を示さなくてはなりません。「ちゃんとやれ、ちゃんとやれ、言ってるお前こそちゃんとやれ」と陰口を言われるようではいけません。



[第15回目:文末]■







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▶[第16回目:文頭]


4.学習意欲の研究

企業人の学習意欲は未開拓の研究分野ですが、釼地(2001)は以下のような研究結果を報告しています。各項目の後に実践ヒントを付記しておきます(*印)。従業員・部下育成の一助になれば幸いです。


【学習意欲を高める要因】

(1)積極的な性格の部下は学習意欲も高い:
*[実践ヒント]
その部下が達成可能なレベルから育成していくことにより(つまり成功体験を積ませることにより)本人の積極性を高めていくことが出来ます。

(2)業務推進に厳しい上司は部下の学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
単に厳しければ良い、ということではありません。部下の成長を願う気持ちが部下本人に伝わっていることが前提です。

(3)部下参加型の意志決定をする上司は部下の学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
これはすでに説明済みのことです。必要に応じて復習して下さい。該当箇所を探すには、[サイト内検索]で「参加型の意思決定」と検索して下さい。各章の[実践ヒント(一覧表)]からも該当箇所を特定出来ると思います。

(4)難しい仕事は担当者の学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
本人の意欲と能力を勘案して、成功確率50%~70%くらいの仕事を与えると良いでしょう。難しすぎると始めから諦めてしまいますし、易しすぎると学習意欲の向上につながりません。

(5)教育訓練計画への当人の参加は学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
「参加型意志決定」と同じです。必要に応じて復習して下さい。該当箇所を探すには、[サイト内検索]で「参加型の意思決定」と検索して下さい。各章の[実践ヒント(一覧表)]からも該当箇所を特定出来ると思います。

(6)具体性をもった教育訓練計画は学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
これもすでに説明したところです。必要に応じて第1章[目標設定]>[管理者のための実践ヒント-7]を復習して下さい。

(7)教育訓練への上司の支援は学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
必要に応じて第1章[目標設定]>[管理者のための実践ヒント-14]を復習して下さい。

(8)教育訓練結果の、処遇への反映は学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
人事評価を有効に活用することです。必要に応じて第2章[動機づけ]>[図表-8]を復習して下さい。

(9)教育訓練の評価基準の整備・公開、評価への参画、評価結果の本人への開示はそれぞれ学習意欲を高める:
*[実践ヒント]
”自己統制”を尊重する「目標管理」の理念と同じです。必要に応じて第1章[目標設定]>[経営幹部のための実践ヒント-3]を復習して下さい。








5.「部下育成」の実践ヒント(一覧表)

以下においては、ここまでに紹介した実践ヒントをチェックリスト風に総括しておきます。時々セルフチェックをして頂きたいとの思いからです。縮小して手帳などに挟み込んで活用することも出来るのではないでしょうか。


【経営幹部のための実践ヒント】
ヒント1:[教育訓練体系の構築]
ヒント2:[OJTの実施]
ヒント3:[人事評価制度の活用]


【管理者のための実践ヒント】
ヒント1:[OJTの有効活用]
ヒント2:[その都度教育訓練]


【その都度教育訓練のポイント10ヶ条】

1. 仕事の進め方について、あらかじめ自分の考えを伝えておく。
2. 日頃から信頼関係の構築に心がける。
3. 考えて叱る
4. 行為に着目する
5. 思いやりを持って
6. 誉めるべきは誉める
7. 本人に考えさせる(コーチングの活用)
8. 人事評価の活用
9. 「育成ノート」の作成
10. 率先垂範


【付記】
[4.学習意欲の研究]>[学習意欲を高める要因]も参照して下さい。




[第16回目:文末]■





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連載講座>組織活性化と管理者の役割:目次


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プロローグ

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本題に入る前の準備です。内容は以下のとおりです。本講座の構成、管理者・組織・組織活性化の意味、6つの役割の抽出、6つの役割の体系化、統合モデルの提示、統合モデルの総括的説明、管理者の役割(自己評価チェックリスト)。

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第1章 目標設定

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「目標設定」の役割について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「目標設定」を管理者の役割とした理論的根拠、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、「目標設定」の実践ヒント(一覧表)。 

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第2章 動機づけ

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「動機づけ」の役割について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。動機づけのメカニズム、「動機づけ」を管理者の役割とした理論的根拠、マズローの欲求リストと実践ヒント、三隅の欲求リストと実践ヒント、釼地の欲求リストと実践ヒント、部下の欲求を知る方法、「動機づけ」の実践ヒント(一覧表)。

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第3章 部下育成

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「部下育成」の役割について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「部下育成」を管理者の役割とした理論的根拠、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、学習意欲の研究、「部下育成」の実践ヒント(一覧表)。

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第4章 問題解決

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「問題解決」について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「問題解決」を管理者の役割とした理論的根拠、「問題」とは、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、「問題解決」の実践ヒント(一覧表)。

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第5章 報酬

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「報酬」について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「報酬」を管理者の役割とした理論的根拠、従業員・部下の欲求の確認、業務目標と報酬の結びつけ、従業員・部下への支援、目標達成と報酬の獲得、「欲求充足の報酬化」を多様化する、「報酬」の実践ヒント(一覧表)。

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第6章 コミュニケーション

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「コミュニケーション」について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「コミュニケーション」を管理者の役割とした理論的根拠、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、「コミュニケーション」の実践ヒント(一覧表)。

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引用・参考資料/更新記録

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・釼地邦秀(2006) 『組織活性化と経営管理者の役割』 白桃書房。
・その他。

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