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開設(2014年6月22日)

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▶[第1回目:文頭]


連載講座:組織活性化と管理者の役割>第1章 目標設定

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【はじめに】

管理者の役割の第1ステージは[目標設定]です。この第1章では目標設定について理論的な説明をし、その後で実践のヒントを提供しますが、前置きが2つあります。


(1)
まず「理論と実践」についての復習です。プロローグで述べたように理論は役に立ちます。それを忘れないで頂きたいのです。「どうやるか(know how)」についての背景に「何故そうすると良いのか(know why)」という理論的な理解があれば実践の時に納得感・安心感を持って取り組むことが出来ます。また、理論的な理解があれば(その理論に依拠しながら)自社・自職場固有の状況に合った、自分なりの実践方法を開発していくことも出来るのです。理論だけではなく、実践だけではなく、両方を融合させながら管理者としての能力を高めていただきたいと思っています。要点を分かりやすく説明してまいりますので前向きに取り組んでみて下さい。関心を持った理論については、さらに深く学んでいただけるように引用・参考資料も記載しておきます。

(2)
2つ目は「経営幹部のための実践ヒント」と「管理者のための実践ヒント」の関係についてです。この講座は「管理者のための実践ヒント」を主題にしていますが、管理者の方々の役割は経営幹部(役員クラス)の方針や指示に対応したものにならなければいけません。ですので、「管理者のための実践ヒント」を紹介する前に「経営幹部のための実践ヒント」を掲げる必要があるのです。たとえば、「目標設定」というとすぐに「目標管理」が浮かんで来ます。しかしそれは全社的な導入・展開となるののが通常ですから「経営幹部のための実践ヒント」というとになります。それを踏まえて「管理者のための実践ヒント」を述べなければなりません。つまり、目標管理制度を導入・展開するという役割ではなく、「目標管理制度を有効に活用する」といった役割の説明になるわけです。このことは6つの役割すべての説明に共通しますのであらかじめ御承知おき下さい。



【キーワード】

管理者の役割/目標設定の役割/理論の有用性/理論と実践の融合/目標設定の実践ヒント/経営幹部のための実践ヒント/管理者のための実践ヒント


.
【目次】

(あらかじめ詳細項目を一覧したい方は 5.「目標設定」の実践ヒント(一覧表)を御覧下さい)

1.「目標設定」を管理者の役割とした理論的根拠(図表-1再掲) ▶[本文]へ

2.経営幹部のための実践ヒント(図表-3,4)▶[本文]へ

3.管理者のための実践ヒント(その1)(図表-5)▶[本文]へ

4.管理者のための実践ヒント(その2)(図表-6)▶[本文]へ

5.「目標設定」の実践ヒント(一覧表)▶[本文]へ



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1.「目標設定」を管理者の役割とした理論的根拠

「目標設定」の重要性は先に掲げた図表-1[ニューズトロム=デイビスの経路-目標モデル]からも分かります。まずは、それを復習しておきましょう。そのうえで、目標設定の重要性に言及している研究を幾つか紹介し、「実践のヒント」へと展開していきます。



1-1.ニューズトロム=デイビスの[経路-目標モデル]

プロローグにおいて紹介したように、彼らは[経路-目標モデル]のプロセスで目標設定の重要性を説いています。すでに紹介したモデルですが<目標>に注目して復習してみましょう。「リーダー」=管理者、「従業員」=部下、「業務目標」=部下の個人目標、「組織目標」=管理者が所管する組織の目標、と解釈します。





図表-1 ニューズトロム=デイビスの経路-目標モデル(再掲)


図表:経路-目標.jpg




■(プロセス1):リーダーは従業員の欲求を確認する

■(プロセス2):適切なる業務目標が設定される

■(プロセス3):リーダーは報酬を業務目標の達成に結びつける

■(プロセス4):リーダーは従業員が業務目標を達成できるように支援する

(プロセス5):従業員は満足感を得て動機づけられリーダーを受け入れる

■(プロセス6):望ましい業務遂行結果目標の達成)が実現し、従業員は報酬を手にする

■(プロセス7):従業員の欲求充足と組織目標の達成がより良く実現される




1-2.ロックとラザムの研究

「目標設定」と言えば必ずロックとラザムの名が出てくるほどに著名な組織心理学の研究者であり、目標設定について幾つもの優れた研究成果を発表しています。たとえば彼らは目標設定の重要性に言及して次のように述べています。Locke=Latham(1984). 

(1)
目標設定は生産性の向上、仕事の質の改善、退屈感の軽減、無意識の競争の誘発などに有効であり、さらに目標が達成された場合には成果に対する満足感や、その仕事に対する満足感が生まれる。

(2)
事業にせよ人生にせよ、いかにして効果的に目標設定を用いるかが問題である。

(3)
私たちは、ある技法がどの程度役立つかは、時の試練、つまりその方法の効果が長い年月にわたって証明されてきたかどうかで示されると信じる。目標設定はこの時の試練に立派に合格している。というのは、これは少なくとも70年にわたってずっと使われてきているからである。

(4)目標設定理論が、単独ではなくて、他の動機づけ理論に取り込まれてきている。



1-3.バーナードの研究

自ら経営者としての経験を持つバーナード(Barnard,C.I.)は日本の経営学研究に大きな影響を与えた研究者ですが、組織の3要素として「共通の目的」、「協働意欲」、および、「コミュニケーション」を掲げ、共通の目的すなわち単位組織の目標や事業目標の重要性を説いています。Barnard(1938).



1-4.ドラッカーの研究

実務家の間でも良く知られているドラッカー(Drucker, P. F.)は、その著書の中で[目標の設定と自己統制]による経営を提唱しました。以下はその要点ですが、「目標」の果たす重要性が良く分かります。Drucker(1954).


(1)各単位組織の目標は事業目標の達成に整合性のとれたものになっていなくてはならない。

(2)単位組織の各構成員の行動は自分たちの共通の目標の達成に向けて整合性のとれたものになっていなくてはならない。

(3)目標を設定し、その目標の実現に向けて行動を開始し、その結果を振り返るにあたっては自己統制が肝要である。


1-5.シュレーの研究

シュレー(Schleh, E. C.)は経営コンサルタントの立場から目標設定を中核に据えた経営管理の具体的な方式を提唱しました。すなわち彼は、[明確な目標の設定]→[目標達成に関わる制約条件の検討]→[目標達成方法の立案]→[実施]→[振り返り]といったプロセスに沿って具体的な展開方法を提示したのです。彼の研究は、先に紹介したドラッカーの研究と共に「目標管理」の発展に大きな貢献をしました。Schleh,E.C.(1955).


[第1回目:文末]■


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▶[第2回目:文頭]



2.経営幹部のための実践ヒント
すでに説明したように「管理者のための実践ヒント」を紹介する前に「経営幹部(役員クラス)のための実践ヒント」を掲げることにします。



ヒント1:[進むべき方向と達成すべき目標を社内に徹底する]
[目標設定]に関しては、経営理念、経営方針、 中長期経営計画、年度目標などの策定により、企業としての進むべき方向や達成すべき目標を全従業員に十分に浸透させることが必要です。そのためには社是・社訓を制定したり、取締役会・常務会・役員会議・経営会議・部課長会議・職場会議・朝礼など、自社の中枢をなす会議体を”有機的に”連携させることが肝要になります。



ヒント2:[リッカートの「連結ピン」概念による組織づくり]
図表-3に示したのはリッカートの連結ピンの概念です。すなわち、ある単位組織の管理者は、その上位組織の構成メンバーでもあり、両組織を結ぶ「コミュニケーションセンター」としての中枢的な役割を果たすことが期待されているのです。経営幹部は管理者に対し、このことを徹底していかなければなりません。組織は連結ピンの概念に基づいて、有機的に構築することが肝要なのです。さもなければ、上位者の決定した目標は下部組織全体に適切な形で伝達され共有化されることはなく、したがって、その目標達成も覚束ないものとなってしまうでしょう。

図表-3 リッカートの連結ピン概念図

連結ピン - コピー.jpg
Likert(1961)により作成






ヒント3:[目標管理の活用]
全社を対象とした目標設定の代表的な方法として「目標管理」があります。これは、自己統制を基礎においた、全体目標の連鎖化による経営管理の一方式であり、先に紹介したドラッカーやシュレーといった人達によって提唱され具体化されてきた代表的なマネジメント・システム(経営管理の方式)です。今日では多くの企業が自社なりの工夫を組み込んで実施しています。


<目標管理の要点>

1.目標管理とは

「目標管理(MBO:management by objectives)」とは、自己統制を基礎においた、全体目標の連鎖化による経営管理の一方式です。「自己統制」とは自己の目標を自分の納得のもとで設定し、必要とされる権限の委譲を得、経過を自己点検しながら主体的に目標の実現に取り組み、完了時点では自らが評価をする-といったサイクルを意味しています。もちろん実際の運用にあたっては完全な自己統制というのは難しいですが(たとえば、重要事項の最終決定権は上司に置かれることが多いのですが)、目標設定から評価までの各ステージにおける”参加”の活用により、出来る限り高いレベルの自己統制に近づけようという努力がなされるのです。これが目標管理の持つ1つめの理念です。

他方、「全体目標の連鎖化」とは全体目標の連鎖的体系化を意味します。すなわち、上位目標は下位目標設定の際の拠り所になり、設定された下位目標の達成は上位目標の実現を導くことになるのです(図表-4参照)。これが目標管理の2つめの理念です。目標管理は全体目標実現のための有効な一方法であり、「自己統制」と「目標の連鎖化」をその中核的な理念としているのです。


図表-4 全体目標の連鎖化

全体目標の連鎖.jpg



2.目標管理の効果  

目標管理の実施効果・期待効果としては少なくとも以下に示す5つの事柄を掲げることが出来るでしょう。 

(1)本人の目標達成意欲の向上
(2)上司の仕事意欲の向上
(3)組織目標の達成
(4)管理者および一般従業員の能力向上
(5)企業経営における経済的側面と人間的側面との統合



3.目標管理の注意点

目標管理は”形だけ”導入しても成功しません。すなわち、制度やフォームを整えただけでは不十分なのです。たとえば、「自己統制」という基本理念をなおざりにするならば、それはノルマ管理の隠れ蓑になってしまい、本来の目標管理から得られる効果は期待出来なくなってしまいます。

さらに、結果(業績)を人事上の処遇(昇進・昇格; 昇給・賞与)に公正にリンクさせる仕組みを整えておかないと、「一生懸命やっても、ぼちぼちやっても大差はない」といった雰囲気や「評価に納得できない」といった不満が生じ、本来の目標管理から得られる効果は減少してしまいます。掲げた目標の達成度の判定と、それをどう処遇に結びつけるか、公正で有機的な結合が必要になります。導入にあたっては十分な事前準備をしなければなりません。

管理者の方は上位者からの方針・指示と、部下の希望・要望との板挟みになることが少なくありませんが、部下の希望・要望と異なった指示をしなければならない時には”十分な説明をして部下の納得を得る”ことが大切です。そうしないと、目標管理は”ノルマ管理の隠れ蓑”と受け取られてしまいます。ロックとラザムは「上司の指示する内容が当を得ていて、その根拠が十分に説明されるならば指示による目標設定でも十分に納得を得ることが出来る」と言っています。


ヒント4:[合宿形式の参加型目標設定]
私が組織活性化のお手伝いをしていたある中堅建設業の会社では、全従業員(120名ほど)を1泊2日の合宿に集合させ、そこで次年度の重点経営方針を示し、各単位組織ごとにグループを組ませて参加的な組織目標の設定を行っていました。もちろん必要な事前準備を整えて実施するのですが、従業員規模に対応させた参加型目標設定方式の一例として紹介する次第です。ちなみに、この会社では温泉地の会場を使用し、2日目の午後はミニ観光を組み合わせるのが慣行になっていました。




[第2回目:文末]■





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▶[第3回目:文頭]



3.管理者のための実践ヒント(その1)

これから紹介する「実践のヒント」は管理者が所管する(部・課・係といった)単位組織における目標設定のヒントという意味です。すでに紹介した理論と、コンサルタントとしての私の体験にもとづいて目標設定のポイントを掲げていきます。所管する組織の目標を設定する時、あるいは部下個人の目標を設定する時に役立てて下さい



ヒント1:[目標の連鎖を念頭に置く]
目標は相互に整合性を保っていなければなりません。このことはドラッカーも言及しているところですが、ロックとラザムは「各層で設定される目標はその上の階層の目標を助ける。すべての従業員の目標を結合したものが組織の総合的目的を達成する手段である」と述べ、目標連鎖の重要性を唱えています。したがって、課員個々人の目標を設定するにあたっては課としての組織目標を、課の目標を設定するにあたっては部の目標を念頭に置かなければなりません。自社が目標管理を導入している場合には「全体目標の連鎖化」を実現するために、なお一層の注意が必要です。管理者は連結ピンの役割を充分に自覚し「全体目標の連鎖化」に貢献しなければならない、ということです。



ヒント2:[目標への納得度を高める]
とくに理論的な裏付けを待つまでもなく、「目標への納得度」は、それが高いほど目標遂行意欲を高めるであろうことは容易に想像出来ます。このことは我々自身が受令者の立場に立てば自ら納得出来ることでしょう。そこで、この納得度について、納得の”レベル”という観点から今少し立ち入った考察をしてみたいと思います。より具体的には、自己決定、参加的決定、説明を伴った指示、説明の無い指示、について考えてみることにします。

第1は[自己決定]ですが、もし、遂行すべき目標について本人に自己決定させることが出来るならば、それが一番納得度の高い決定方式になるのは明らかです。そして、第2が[参加的決定]です。もし、何らかの事情により自己決定が不可能な場合、たとえば上司と部下が共同で目標を設定出来るならば、それは自己決定に次いで目標への納得度を高めるでしょう。以下、第3として[説明を伴った指示]、第4として[説明の無い指示]という順になります。

ロックとラザムは、「目標への納得は目標設定に係わるさまざまな工夫をする際の必須の前提となる」との説明をした上で、”説明”の重要性を説いてます。参加的な決定によることが出来ず指示によるしかない場合には”十分な説明”を忘れないようにしたいものです。なぜならば、実務の場では自己決定や参加的な決定の方式ではなくて、”指示”という形の決定方式を取らざるを得ない場面が少なくないからです。(しかもその場合に十分な説明がなされないケースが多いように思われるからです)。ロックとラザムも、「上司の指示する内容が当を得ていて、その根拠が十分に説明されるならば指示による目標設定でも十分に納得を得ることが出来る」と言っています。上司と部下の板挟みの中で指示に依るしかないことの多い中間管理者の方々にとって、このことは有効な示唆となるでしょう。自己決定はおろか参加的な決定の方式をも採ることが出来ず、やむを得ず指示による目標設定をする場合には、ぜひ、”十分な説明”を心がけて頂きたいと思います



ヒント3:[参加的な目標設定を活用する]
前項の補足説明になりますが、実施担当者とその上司が共同で目標設定をする形式が”参加的な目標設定”です。学歴が高まり民主的な考え方が広まる中で、この参加的な目標設定の方式は実務の場でも広く注目されるようになっています。このことについては、「参加的な目標設定が生産性を高める」との報告もあります(松井,1982)。また、この方式は”部下育成”にも有効ですので、状況が許す限り参加的な意思決定を活用したいものです。



ヒント4:[目標設定には外発的報酬を組み込む]
自分以外の者から、つまり、外的に与えられる報酬を「外発的報酬」といいますが、ここでは目標設定と外発的報酬との関係に着目してみたいと思います。

さて、図表-1[ニューストロム=デイビスの経路-目標モデル]のところで述べたとおり、我々人間が何かに向かって努力をするのは、多くの場合、直接的に、あるいは間接的に、その努力が自分の欲求充足(つまり当人の望んでいる報酬の獲得)に結びつくとの信念があるからに他なりません。したがって、目標を設定する場合には、その目標に向かっての努力が、業績(目標達成)を経て、当人の抱いている欲求の充足に繋がるとの認識を持たせる必要があるのです。企業内の通常の業務遂行場面では、すでに、その業務遂行担当者に[努力]→[業績(目標達成)]→[報酬の獲得]という認識のあることが多いのですが、もし、その認識が無かったり、希薄であったりする場合には、その目標の達成に向けての努力が当人の望んでいる報酬の獲得に繋がることを改めて認識させる必要があります。たとえば、本人が営業係長の職位を望んでいるとするならば、「今回の販売目標を達成することが出来ればトップ・セールスマンとして2度目の社内表彰を受けることが出来る。そうなれば、次の人事異動の時期には君を営業係長に推薦出来る」といった具合です。目標と報酬の関係については「動機づけ」の章でさらに詳しく説明します。



ヒント5:[内発的報酬も忘れないように]
報酬には外発的なものの他に、自分が自分に与える「内発的報酬」があります。たとえば、目標を達成したした時に感じることの出来る”達成感”はその代表的なものです。ロックとラザムも「目標の根底にある動機づけとは、目標達成による成就感および有能感である」と述べています。したがって、目標設定は必ずしも外発的な報酬にのみ関係づけられる必要はありません。目標の設定それ自体が意欲を喚起すると共に、その達成は成就感や有能感という内発的な報酬に繋がっているからです。何らかの事情で目標設定と外発的な報酬を組み合わせることが出来なくても、実施担当者の納得のもとで「容易には達成出来ないが、頑張ればなんとか出来そう」というレベルの目標を設定するならば、それだけでも目標遂行意欲を喚起することが出来るのです。なぜならば、自己の納得のもとで設定された”容易には達成出来ないレベルの目標”は(一般に)目標遂行意欲を高めるからです。そして、その目標を達成出来た場合には、成就感や有能感といった内発的報酬を得ることが出来るのです。もちろん外発的報酬と内発的報酬とが同時的に獲得出来れば、それがベストです。



ヒント6:[目標の優先度を決める]
通常、目標は複数であることが多いと思います。すなわち、異なった目標が複数あったり、1つの目標に関連目標が付くこともあるでしょう。そして、このような場合には、しばしば、目標の優先度を決めることが必要になってきます。このことについてロックとラザムは目標の「重要度」と「難易度」の側面から検討することを勧めています。ただし、彼らは「目標遂行期限」については明示的な記述をしていないので、筆者としては、それを追加しておきたいと思います。目標遂行期限は重要度や難易度に含めて考えることも出来ますが、独立項目とした方が明快で実務的だと思うからです。たとえば、重要度、難易度にかかわらず納期最優先ということは良くあることです。したがって、「目標の優先度を決めるにあたっては、目標の重要度、難易度、および遂行期限の3側面から検討することが必要」ということになります。


ヒント7:[目標は具体的に設定する]
目標設定の場面において、実務的な観点から「具体的」という場合には”納期”と”目標レベル”が中核になりますが、ここでは目標レベルについて考えてみます。

さて、我々は良く「ベストを尽くせ」といった言い方をしますが、目標は出来る限り具体的にした方が良いのです。このことについて、ロックとラザムは「具体的でやりがいのある目標を与えられた者は、たとえば『一生懸命にやりなさい』といったアイマイな目標を与えられた者よりもよい成績を示した」と報告しています。

そこで目標レベルの具体化を考えてみると、まずは”数量化”が想起されます。目標設定においては出来るだけ数字を用いたいものです。しかしながら、この数量化にもさまざまな方法があります。たとえば、生産数量を10%向上させるというのは数字による表現であり、その意味では具体的で良いのですが、かりに100個生産していた場合、「新たな生産目標は110個」と表現した方がより具体的になります。業務遂行担当者の立場になって、出来る限り具体的な表現を考えてみたいものです。

ところで、思うように数量化が出来ない場合はどのようにして具体化すれば良いのでしょうか。その場合には、為すべき事を箇条書きにしたり、チェックリストに置き換えるのも1つの方法になります。また、図表-5のような方法もあります。少しでも具体的な目標となるように工夫したいものです。



図表-5 数量化のためのチェックシート

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ヒント8:[目標のレベルは容易には達成出来ない水準にする]
目標のレベルについて、ロックとラザムは次のように言っています。「むずかしい目標は、やさしい目標よりも高い成果を生み出す。なぜなら、人はある目標をいったん受容すれば、難しい目標のほうが一生懸命になるからである。ただし、目標があまりにも難しすぎる場合には挑戦意欲は低下し、やさしすぎる場合には成果が低下する」。このように、目標のレベルについては、明らかに達成不可能なほどの困難さでは目標遂行意欲は低下するでしょうし、やさしすぎる目標レベルは成果が低下するのみならず、目標遂行意欲を低めたり、達成感の減少を伴うでしょう。

たとえば、創業者であるオーナー社長が「達成出来るような目標は目標にならない」と考えていて、年度売り上げ目標や生産目標を、誰が考えても実現不可能なレベルに設定した場合、対象になっている従業員は「よく言うよ。やれるものなら自分でやってみな」と思うかもしれません。

私は、”その仕事について”、その担当者の”意欲と能力”を勘案しながら、”頑張ればなんとか達成出来る”という水準に目標設定することが望ましいと考えています。そして、そのように現場での指導をしてきました。さらに、”頑張ればなんとか達成出来る”という水準の目標設定は目標達成時の”報酬”とのセットでなければなりません。「頑張って目標を達成したらどうなるの?」という担当者の思いに報酬システムが対応していなければ有効な動機づけにはならないのです。詳しくは「動機づけ」と「報酬」の章で説明します。


[第3回目:文末]■



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▶[第4回目:文頭]




4.管理者のための実践ヒント(その2)



ヒント9:[達成期限を決める]
ロックとラザムは高い生産性を実現するための1要素として”期限”を掲げています。私は、コンサルティングにおいても、管理者育成コースにおいても、大学の授業でも、そして自分自身にも、「仕事には期限がある。期限が無いのならば、それは仕事ではない。趣味である」と言っています。このことは実務に携わっている人間ならば身をもって感じていることであり、これ以上の説明は要らないでしょう。ただしここでは、”仕事には当然に期限がある”という理解の仕方ではなく、”仕事においては意識的に期限を設定する”という捉え方を強調したいのです。部下に指示・目標を与える時には必ず「何時(いつ)までに」という「達成期限」を設定しなければならないということです。そしてそのことを自分自身にも課さなくてはなりません。


ヒント10:[中間目標を設定する]
目標設定に当たっては、目標の重要度、難易度および遂行期限の相互関係が必須の検討課題になりますが、ここでは長期間かけて遂行することになった目標について考えてみたいと思います。結論を先に言うならば、「長期間を要する目標については中間目標(期限)の設定が望ましい」ということです。たとえば、目標達成までに1年を要すると思われる場合、6ヶ月目の中間目標を設定しておくのです。そして、残りの6ヶ月をもって全体を完成させます。場合によっては3ヶ月単位の方が良いかもしれませんし、さらには1ヶ月単位の方がよいかもしれません。いずれにしても担当者の意向を尊重しながら参加的に設定することです。ある大きめの目標を抱えて1年間取り組むというのは、我々自身の体験からしても”しんどい”ことです。しかし、それが幾つかに分割され、1つ1つの中間目標に達成感を味わいながら次の目標に向かうことが出来れば、その方がずっと目標遂行意欲を維持しやすいことです。このことについて、ロックとラザムは「全体的な目標の達成に至るためのステップに相当する小目標を用意すれば、人びとを部分的に動機づけることもできる。小目標は全体目標が長期にわたるものである場合にはとくに有効である」と述べています。この方法は進捗状況のチェックにも役立つので私自身も目標管理や小集団活動そしてOJT(職場内訓練)などの指導において頻繁に活用してきました。


ヒント11:[個人の責任分担を明確にする]
これは集団目標を設定する場合の注意点です。我々はしばしば複数の人間が関わる目標を設定することがありますが、このような場合には各人の責任分担を明確にしておくことが肝要です。ロックとラザムは「集団目標を設定するときには、集団の成果に対する成員個々の寄与度を測定しなければならず、また実際に測定されているということを成員たちに教えておかなければならない」と言っています。「それでは皆で協力し合って頑張ろう」と言うだけでは不十分なのです。「皆で協力し合ってやろう」とうことは、「誰かがやるだろう」ということに繋がりかねないからです。総責任者を決めると共に、個々人の責任分担も必ず決めるようにして下さい。



ヒント12:[適材適所]
ある目標に、ある人間を任命する場合には、その者の目標遂行意欲と目標遂行能力の両面から検討して適材適所を計る必要があります。ただし、目標遂行意欲と目標遂行能力は”目標”と”担当者”との相対的な関係で考えていかなくてはなりません。ある目標について高い遂行意欲と高い遂行能力を持っている者が別の目標についても同レベルの意欲と能力を持っているという保証は無いのです。したがって、役割分担を決めるにあたっては、個々の目標ごとに、個々の人間ごとに、目標遂行意欲と目標遂行能力の両面から検討しなければなりません。



ヒント13:[予想される問題の事前対策を立てておく]
統合モデルの紹介のところで述べたように、目標が設定され、実際に活動が開始されると、必ずと言って良いほど”問題”が発生します。ロックとラザムは「監督者の重要な役割は、こうした障害を見つけ出し、それらを克服する方法を部下と共に発見することである」と言っていますが、管理者は”あらかじめ”起きそうな問題を想定し、その問題が発生したときの対策を事前に考えておく必要があるのです。私は、あらかじめ物事の展開を想定する能力を”先読み能力”という言葉で説明することにしていますが、ここで採り上げた問題予測能力は先読み能力の1つであり、管理者の能力の中でもとくに大切なものの1つであると思います。なお、課題遂行に大きな影響を及ぼす可能性のある問題への事前対策は2段構え3段構えにしておきたいものです。とくに、プロジェクト・チームのように、特定の課題を遂行するための臨時混成組織においては、なおさらのことです。



ヒント14:[部下に対しては支持的に振る舞う]
ロックとラザムはリッカートの研究や自分たちの実験室的研究から「上司が部下に対し支持的に振る舞うと、その部下は高めの目標を設定し、目標の受容も容易になる」と結論づけました。ここで言う”支持的”とは、部下の存在感を認め、部下との友好的な関係を築き、失敗した時にも励ましを与える、といった言動を意味しています。あなたにも、「君を頼りにしているよ」、「よく頑張ったね。私も嬉しいよ」、「そんなに落ち込まないで。この失敗を今後に活かすようにしていこう」といった上司の言葉が励みになった経験があるのではないでしょうか。その経験をご自分の部下にも、ぜひ体験させて頂きたいと思います。



図表-6 高生産性の監督者は非処罰的・支援的
支持的監督者.jpg
Likert(1961)より作成





ヒント15:[フィードバックを忘れないように]
一般に、フィードバック(feedback)とは、出力データを入力側に戻すことを言いますが、ここでは経過情報や結果情報を業務遂行担当者に知らせることを意味するものとします。たとえば、我々が自分の担当している業務について、その経過も結果も知り得ないとしたら、おそらく、業務遂行意欲は随分と低いものになるでしょう。このことについて、ロックとラザムは、「フィードバックは、望まれる成果に向かっての進捗状況を知るうえで不可欠のものである。ある基準に対する進捗状況がわかれば、必要があれば行動を修正することができるし、うまくいっておればそれまでのやり方を続ければよい。(中略)。フィードバックは、目標設定が効果を上げるために不可欠のものである」と述べています。具体的には、ある目標を与えられた作業者が近くの端末で自分の作業進捗状況を確認出来るようにしたり、一定の時間ごとに作業の進捗状況を本人に知らせたりすることは業務遂行意欲を高める有効な手段になるのです。

【付記】
稲盛和夫氏が再建を担当した日本航空では部門別採算制が導入され効果をあげましたが、そのシステムの中にはフィードバックの機能が組み込まれていました。たとえば、機内販売に工夫をこらした客室乗務員はその成果をすぐに知ることができたのです。「部門別採算制でその成果がすぐ分かる。『こんなに売れたんだ』。数値化された成果を見るともっと頑張ろうという元気が出る」と、紹介されています。日本経済新聞(2014,6,3)。




ヒント16:[実施計画を作る]
言うまでもなく、目標は達成を前提に設定されるものですが、その実現には実施計画の作成が必須です。と言うのも、実施計画には、何時までに(期限)、誰が(責任分担)、何を(目標)、どのくらい(目標値)、どのようにやるか(手段)、さらには、経過フィードバック(あるいは中間チェック)の方法や時期までも組み込めるからです。個人目標にせよ組織目標にせよ、ぜひ実施計画を作成したいものです。そうすれば、適切な間隔で会合を開き、実施計画と照合しながら進捗状況を共有することもできるのです。




ヒント17:[職場内目標管理の活用]
これは職場単位のミニ目標管理であり、会社が目標管理を導入していない場合でも自職場だけで実施でき、さまざまな活用方法があります。たとえば、新規訪問件数などの業務目標でも良いし、商品知識の獲得といった能力開発目標でも良いのです。上司が主宰して職場の全員が1ヶ月~数ヶ月単位でミニ個人目標を設定し、それに挑戦するのです。黒板などに目標遂行状況一覧表を掲示し、期間終了のたびに達成度の確認と次の目標設定をします。以下には実施上の検討項目を掲げておきますので、それらを参考にして自職場に相応しい方法を構築して下さい。

(1)全社目標管理との関係
たとえば全社目標管理の対象階層が課長までとなっているような場合に活用出来ます。全社目標管理に登録した課長の目標項目に整合を持たせて課員各自に個人目標を設定させます。あるいは全社目標管理が全社員を対象にして業務目標のみを要求している場合、職場内目標管理で部下に能力開発項目を設定させる、という使い方もできます。

(2)目標設定の方法と種類
本人の自由意思に委ねる、上司・部下が話し合って決める、業務目標に限定する、能力開発目標でも良しとする、などの方法があります。

(3)成果と人事評価の関係
成果は人事評価の直接の対象にするのが原則です。ただし、職場内で完結させる方法もあります。たとえば、課長が役職手当を原資として職場内報奨制度を創るのです。道路地図とかフォトフレームとか図書券といった賞品にします。ただし、これらは副賞扱いであり、課長からの労いの言葉と仲間からの賞賛が本賞になります。ある管理者研修会でこの方法を紹介したら休憩時間に一人の受講者が近寄ってきて「私もやっています。けっこう喜ばれています」と言っておりました。





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5.「目標設定」の実践ヒント(一覧表)

以下には、ここまでに紹介した実践ヒントをチェックリスト風に総括しておきます。時々セルフチェックをして頂きたいとの思いからです(□はセルフチェックなどに活用して下さい)。縮小して手帳などに挟み込んで活用することも出来るのではないでしょうか。




【経営幹部のための実践ヒント】

□ヒント1:[進むべき方向と達成すべき目標を社内に徹底する]
□ヒント2:[リッカートの「連結ピン」概念による組織づくり]
□ヒント3:[目標管理の活用]
□ヒント4:[合宿形式の参加型目標設定]



【管理者のための実践ヒント】

□ヒント1:[目標の連鎖を念頭に置く]
□ヒント2:[目標への納得度を高める]
□ヒント3:[参加的な目標設定を活用する]
□ヒント4:[目標設定には外発的報酬を組み込む]
□ヒント5:[内発的報酬も忘れないように]
□ヒント6:[目標の優先度を決める]
□ヒント7:[目標は具体的に設定する]
□ヒント8:[目標のレベルは容易には達成出来ない水準にする]
□ヒント9:[達成期限を決める]
□ヒント10:[中間目標を設定する]
□ヒント11:[個人の責任分担を明確にする]
□ヒント12:[適材適所]
□ヒント13:[予想される問題の事前対策を立てておく]
□ヒント14:[部下に対しては支持的に振る舞う]
□ヒント15:[フィードバックを忘れないように]
□ヒント16:[実施計画を作る]
□ヒント17:[職場内目標管理の活用]

[第4回目:文末]■







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連載講座>組織活性化と管理者の役割:目次


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プロローグ

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本題に入る前の準備です。内容は以下のとおりです。本講座の構成、管理者・組織・組織活性化の意味、6つの役割の抽出、6つの役割の体系化、統合モデルの提示、統合モデルの総括的説明、管理者の役割(自己評価チェックリスト)。

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第1章 目標設定

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「目標設定」の役割について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「目標設定」を管理者の役割とした理論的根拠、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、「目標設定」の実践ヒント(一覧表)。 

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第2章 動機づけ

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「動機づけ」の役割について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。動機づけのメカニズム、「動機づけ」を管理者の役割とした理論的根拠、マズローの欲求リストと実践ヒント、三隅の欲求リストと実践ヒント、釼地の欲求リストと実践ヒント、部下の欲求を知る方法、「動機づけ」の実践ヒント(一覧表)。

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第3章 部下育成

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「部下育成」の役割について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「部下育成」を管理者の役割とした理論的根拠、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、学習意欲の研究、「部下育成」の実践ヒント(一覧表)。

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第4章 問題解決

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「問題解決」について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「問題解決」を管理者の役割とした理論的根拠、「問題」とは、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、「問題解決」の実践ヒント(一覧表)。

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第5章 報酬

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「報酬」について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「報酬」を管理者の役割とした理論的根拠、従業員・部下の欲求の確認、業務目標と報酬の結びつけ、従業員・部下への支援、目標達成と報酬の獲得、「欲求充足の報酬化」を多様化する、「報酬」の実践ヒント(一覧表)。

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第6章 コミュニケーション

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「コミュニケーション」について理論と実践ヒントの両面から説明します。内容は以下のとおりです。「コミュニケーション」を管理者の役割とした理論的根拠、経営幹部のための実践ヒント、管理者のための実践ヒント、「コミュニケーション」の実践ヒント(一覧表)。

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引用・参考資料/更新記録

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・釼地邦秀(2006) 『組織活性化と経営管理者の役割』 白桃書房。
・その他。

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